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小児科医が吐く毒

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2007年 03月 23日

タミフルの効果

巷を賑わすタミフルという薬.この薬は一体なんなのか?答えられる人がどれだけいるだろうか?
臨床の現場での判断材料として相応しい質のデータかどうかを重視する「根拠に基づく医療」の重要性が認識されるようになって久しい.この「根拠」として最高レベルと言われるデータベースに"Cochrane Review"がある.このデータベースでインフルエンザについて検索してみると「健常成人におけるノイラミニダーゼ阻害剤の効果」という総説が見つかる.結論から言えばタミフルにはインフルエンザ発症予防効果は認められなかった.治療効果は73%の患者さんに認められた.
インフルエンザへ積極的にタミフルを使うべきだという主張はKaiser(スイス)のArch Intern Med 2003; 163: 1667-1672という論文を引き出してくる.この論文の中から「タミフルは成人に投与した場合に肺炎などの合併症を半分に減らすことが出来る」と主張するのだが,実際にこの論文を読んでみるとその解釈は必ずしも正しくないことが判る.まず,気がつくのは名を連ねる研究者の中に3人のロッシュ関係者がいることだ.また統計解析をロッシュが行っている.その上でタミフルを飲まなかった場合には健常者662のうち25人 (3.8%)が気管支炎を,また9人 (1.4%)が肺炎にかかってしまった.一方タミフルを内服した982人のうち15人 (1.5%)が気管支炎を,また2人 (0.2%)が肺炎に罹患した.更に飲まなかったうち3人 (0.5%)が,飲んだうち1人 (0.1%)がインフルエンザに関連して入院した.このように一見タミフルが合併症を減らし入院のリスクを軽減したように見えるデータだが,ここに挙げた健常者におけるデータには「統計学的有意差」が成立しない.つまりは一見あるように見える差は科学的には全く意味を持たないという事になるのだ.
どうしてもタミフルを飲みたいという方.このデータをどう思う? 

# by slow_walker | 2007-03-23 21:45 | 世間に漏
2007年 03月 01日

インフルエンザ

まだ小学生の頃39℃の熱が出て,見上げた天上がゆがんで見えたのを思い出す.あの時の診断は「流感」だった.流行性感冒,つまりは流行りやすい風邪.インフルエンザは「流行りやすいもの」を意味する語源を持つ.要は流感だ.あの時の症状を思い起こしても典型的なインフルエンザだったと思う.
昔からある病気なのだ.約40年周期と言われるウィルスの突然変異に伴う大流行による被害はあるものの我々人類は生き延びてきた.体力の衰えた老人などを除けば多くの健康な人々にとっては休んでいれば治る風邪に過ぎない.
それが近年,検査でウィルスが判るようになった.治療薬と称する薬が出てきた.現在の風潮としては冬場に熱が出たら直ぐに病院で検査して薬を貰わないと死んでしまう位の不安が渦巻いているようにみえる.
まず一つ.発熱直後は検査をしても感度が悪い.インフルエンザであっても陰性と判断してしまうことになる.だから発熱直後の検査は無意味だ.
次に,タミフルやリレンザといった治療薬だが,これらは放置した場合に平均発熱期間が4.5〜5日位のものが約1日短縮する効果しかない.基本的には放置しても治る病気の熱を1日縮めるだけの効果なのだ.
3つ目.厚労省は「タミフルと異常行動との間に因果関係は証明できなかった」と言っているに過ぎない.タミフルと異常行動の因果関係を「否定した」訳ではないのだ.「判らない」と言っているのだ.この辺りを正確に伝えている報道機関が皆無である事に気付かねばならない.本来,マスメディアは市民の不安をメシの種にしている.彼らは不安を煽りたいのだ.騙されてはならない.とは言え,アメリカのFDAはとうの昔にタミフル内服後の異常行動に注意を促している.厚労省の後手ぶりは相変わらずだ.巨大メーカーロッシュに首根っこを押さえられているような気がしてならない.
4つ目.タミフル内服によって早く解熱した患者さんの中にウィルスをまき散らしている人がいると言う報告がある.仕事が大変だからとか学校を休みたくないからと言う気持ちは立派だが,結果的に人にインフルエンザを移してしまうかもしれない.

結論として,普段元気な人にタミフルは必要ない.家でゆっくり休むべきだ.自分の体を労る勇気を持って欲しい.また,周りが病人を労る気持ちを持ち続けられる社会であって欲しい.
昨今の窮屈さを思えば,この社会こそ治療が必要なのではと考えてしまう.

# by slow_walker | 2007-03-01 23:50 | 世間に漏
2007年 02月 12日

休日の小児科医

世の中は3連休.でもそんな連休中にも病気になってしまう不幸な人たちがいる.遊びに出かけて怪我しちゃう人もいる.そんな人たちの為に救急外来がある.
北海道のニセコは有名なスキーリゾートだから,麓の街にある病院では冬場になると怪我したスキーヤーやボーダーでごった返している.スキーが好きでその病院を選んだある整形外科医が嘆く.「今年はまだ1度も滑ってない」おまけに最近ではオーストラリア人が大挙して訪れている為に英語がしゃべれないと勤まらないそうだ.
さて,小児科医はと言うと...この3連休,田舎病院でバイト中なのだが,大して忙しくはない.忙しくないのだが,今朝の救急外来には20人ほどの親子連れが列をなしていた.朝,小児科医が来ると聞いてやって来たのだ.ほとんどは風邪.なかには鼻水だけってのもいる.最早「救急」ではなく「休日外来」だ.
本来の救急外来は「緊急性を見極め」,「緊急性の高いものは治療する」のが目的なので,“軽症”と判断すればそれでお終いなのだが,昨今の権利意識が高く医療不信の強い患者さん達にはそんな理屈は通じない.それでも本来は平日までの最小限の処方とすべきなのだろうが,それすらも納得しない人がほとんどだ.
本日の受診者20名.入院ゼロ.採血ゼロ.点滴ゼロ.処方なし3名.
外来が終わったら“呼び出し番”の始まりだ.救急外来に当直医の手に負えない患者さんが来たとき(一度,カルテに“3歳だからムリ.小児科コール”とだけ記載して呼び出した整形外科医がいたなぁ),入院中の患者さんが具合悪くなったとき,お産で赤ちゃんの具合が悪くなる可能性がある時などに及びがかかる.だから気持ちのスイッチを切ってしまうわけにはいかないし,病院に30分以内に着ける状態であることが望まれる.とは言え3日以上の長丁場を張り詰めて過ごすのは体に悪く,得てして肝腎の時に集中力が途切れてしまいミスの元となったりする.だから適度に息を抜く.
本を読んだり,DVDを観たり,軽い運動をしたりと人それぞれだ.夜には地元の飲み屋さんで軽く(仕事が出来る程度に)飲んだりもする.“患者さんを診るかも知れないのに飲むなんて!”などと言うお堅い方もいるかもしれないが,日本の医師法では飲酒して医療行為を行うことを禁じていない.更には“呼び出し番”の医師に禁酒を命ずると当直と同等と見なされ賃金が発生する.こうなると地方の病院は経営が成り立たない.
今の世の中,いい加減なことを許さない風潮があるが,いい加減さは人間らしさでもある.お互いに遠慮を知り,節度を守れば,もっと住みやすい世の中になると思うのだが.

# by slow_walker | 2007-02-12 12:31
2006年 11月 18日

雲行き

小児科医が足りないと言う.病院勤務を続けていると,職歴20年のベテランになっても夜中に呼ばれる.「いくつになるまでこれ続けるんだろう?」疑問が首をもたげてくる.タフな仲間や先輩達も沢山いる.50になっても当直明けに脂ぎった顔でテンション高い先生もいる.でもみんなが真似できる訳じゃない.
多分そんな気持ちから先輩たちも開業していく.中堅から上がごそっといなくなる.30台に負担が掛かる.燃え尽きる.そんな悪循環だと思う.
開業医に夜間救急の義務化を.医師には地域医療の義務化を.とか言う人がいる.やる気のない人に地域医療を任せていいのか?問題をはき違えている気がする.

先が見えない闇夜を歩く.仕方がないから足元だけ見て.一歩一歩歩いていく.辛い坂道も「いつか終わるさ」と歩き続けてきた.でも先が見えない.そろそろ疲れてきたんだけど.休んでもいいかな?そんな問いには誰も答えてくれない.みんな俯いて足元だけを凝視して足を進めている.ま,いいか.足が動かなくなったらその時は休もう.そしてまた歩き始める.

# by slow_walker | 2006-11-18 14:04
2006年 09月 30日

注射屋さん

外科系の先生から採血や点滴を頼まれることがある.子供は小児科医というのだろう.だが,注射が上手くなるトレーニングなんてない.泣く子供と一緒に心の中で涙してコツを掴んでいく.どうしてもうまくいかないときには外科の先生に頼んで手術的に入れて貰うこともある.
んじゃなんで外科医が小児科医に頼むのか?理由は分からない.ボクらが特別に上手い訳じゃない.僕なんて小児科医の中では下手くそな方だ.失敗して子供達から嫌われることもしばしばだ.だけど,自分がやらないと子供が助からないと思うから,心を鬼にして感情を出来る限り殺して入れる.それがプロってもんだと思う.
だから,自分でやってみようともせずに「難しそうだから」と頼んでくる外科医には辟易している.プロ意識が感じられないからだ.
じゃあ,小児科医の仕事はなんだと言う乱暴な輩がいる.断言する.小児科医の仕事は点滴や採血をする事ではない.患者さんの状態を把握し,採血の必要性,必要な検査項目,検査結果の評価,点滴の必要性,点滴する内容の正しい選択を判断するのが仕事だ.点滴なんて誰が入れても同じだ.
日本国内の小児科外来において行われている点滴の半分は不要で,その内容も不適当だと思っている.「子供は点滴さえしていれば大丈夫」と言って憚らない輩が沢山いる.始末が悪いことに小児科医の中にもいる.
本当のプロならば正しい判断と適正な医療行為を目指すべきだろうが,彼らの多くは親への説明が面倒だからとか,万が一後から具合が悪くなったときに面倒だからと言った理由で点滴を施す.南無阿弥陀仏.

# by Slow_Walker | 2006-09-30 15:08